最強の法則・バックナンバー

最強の法則1999年2月号

第2回 アナログ理論編

「3コーナーで勝馬を言い当てる木下」

先月号では、馬券生活者・木下の人となりや、輝かしい成果について紹介した。今回は、いよいよ核心に触れる。彼の馬券術は、「デジタル」というべきタイム理論と、「アナログ」というべき「走馬術」(レースの馬の見方)であると書いたが、その「アナログ」部分を全面的に公開する。

初めに断っておくが、この「走馬術」は、誰もがレースを見ることによってすぐに実行できる、実戦的な方法である。面倒な計算が必要な「デジタル部分」は後に回すとして、誰にでも応用できる「アナログ部分」の考え方を、まずは見てほしい。少なくとも取材は、この「走馬術」の非常に深い考察に大いなる驚きを受け、これは絶対に「従来にないまったく新しい馬券術となる」という予感を持ったのだから。

木下と一緒にレースを見ていて、驚かされたことがある。向こう正面、3コーナーを回るあたりで、「これは○○○○のレースやな」と、勝ち馬を当ててしまうのである。特捜班が見ると、特に手ごたえがいいわけでもないし、まったく理由がわからない。しかし、訝しげに見ていると、本当にその馬が抜け出してくる。特捜班は、一同「ヘーっ」と唸ってしまう。そんなことが何度もあった。数多くの経験により身についた彼のレースの見方は卓越している。それだけは、十分に感じることができた。

そこで、特捜班は彼のアナログ部分の馬券術を相馬ならぬ、「走馬術」と名付けたのである。

「走馬術」とは何か? 一言でいえば、「走っている馬を見る」方法である。馬の見方というと、従来は「歩いている馬」、つまりパドックの見方が基本であった。しかし、木下の馬券術は、「走っている馬」を見ることが中心である。

木下は言う。

「馬は走ることによって勝負しますやろ。なのに、歩いている馬を見ることで、その走ってるときの状態をどこまで判断できるもんやろうか? それが、一番大きな疑問やったんですわ」

木下は、馬券生活者となる以前に、パドック派だったことがある。来るロも来る日もパドックを見続け、これだと思った馬の馬券を購入した。しかし結果はといえば、そこそこは当たるものの、決して自分が期待していたほどの成果はなかった。

「歩いている馬を見るだけで、馬の善し悪しを判断できる人もいるかもしれまへん。でも、そんな人はほんの一握りなんやないでしょうか。残念なことに、私はその一握りの人にはなれへんかった。で、やっばり歩いてる馬より走ってる馬や、思うて。それが原点でしたんや」

走ってる馬、というと「返し馬」があるが、返し馬は全馬が同じ方向に走るわけではない。一人ですべてを確認するのは不可能である。返し馬をやらない馬だって多い。また、返し馬がいくらよくても、単独で走るのと他馬と一緒に走るのではまったく違う。木下はそう考えた。

もうひとつ、走っている馬には「調教」がある。しかし、一般ファンには全馬の調教を見るのは不可能だ。一部なら、グリーンチャンネルで見ることもできるが、ほとんどが直線だけの走りしかわからないし、重賞やオープンの有力馬以外はほとんど放映してくれない。新聞に載る調教タイムというのはあるが、実際に走っている様子がわからないし、馬場状態の正確な把握ができない。また、どの程度力を出して走ったかも詳細にはわからない。そんな不明確なものは参考にできないと木下は考えた。

では、何があるのか。

「レース、です」

木下は言った。

「レースは、馬券の材料の宝摩ですわ。レースを走っている馬を見ていることで、さまざまなことがわかってきます。馬の個々の気質、走ったコースによる有利不利、展開・ペースによる有利不利…。レースを見ることで、馬の能力の見極め、次走への応用がかなり正確にできるんですわ」

前号で、木下が「前週に行われた72レース」(土、日の関東、関西、ローカル全レース。グリーンチャンネルで月曜に放映)のビデオを繰り返し何度も見る、と書いた。木下は、これを火曜から木曜まで、かなり長い時間をかけて見る。1頭1頭、チェックしていく。馬券生活者だからといって、平日はぶらぶらしているわけではない。むしろ、彼の馬券術は、平日にこそ作られるわけだ。

さて、ではその「レースの見方」を、これから紹介していこう。ただ、概略を説明してもわかりにくいので、具体例から入ろう。


木下健(きのしたたけし)
3年前、それまで勤めていた電気工事関係の会社を辞め馬券生活者となる。辞めた理由は、勤めたままでは、競馬の研究をする時間がないから。以後、研究と実践に没頭し2年半で彼が叩き出した馬券収入は約2000万円、年収に直すと約800万円。大阪の郊外のマンションに住み、文字通り馬券で妻一人、娘一人を養っている。妻はよき理解者でもある。(詳細は1月号にて)

「レースは一つじゃない」???

「昨年の安田記念は、1つじゃない。実は3つのレースだったんです」

木下のこの表現により、取材班は日が点になってしまった。安田記念は安田記念。ひとつのレースだろう。いったいなぜ3つなのだ。

「この安田記念では、3コーナーから馬群が3つにキレイに分かれました。1つは、馬場の悪化した内ラチ沿いAを、距離のロスなく回った馬たち。5着アライドフオーシズ、7着エイシンバーリン、4着ロイヤルスズカ、3着チアズサイレンスなどです。もう1つは、内ラチから5~6メートルのなるべく馬場のいいところBを選んで走った馬たち。1着タイキシャトル、2着オリエンタルエクスプレスなどですね。最後は、内ラチから10メートルはど離れた、ふだん使われない馬場Cを通った馬たち。9着スギノハヤカゼ、11着ブラックホークなどです」

なるほど。同じレースのように見えるが、3つの馬群が、それぞれ「別のレースをしていた」というのである。これは、まったく斬新な考え方だ。同じレースを3つに分けて考えるわけだから、それぞれの馬がこのレースで示した能力は、馬群により異なることになる。

安田記念で言えば、まず「内ラチから5~6メートルのなるべく馬場のいいところを選んで走った」1着タイキシャトルと2着オリエンタルエクスプレスは、この日の馬場を考えれば最もオーソドックスな走り方であり、これを基準にする。

そして、内へ突っ込んだ3着ヒロデクロスと4着ロイヤルスズカは「内と外の馬場差はそれほど大きいものではなく、コースロスなく内を回った馬のほうが恵まれている」と割引する。

ただし、内ラチを通った馬にも2種類あり、最初から先行して内ピッタリを回った馬(アライドフオーシズ、エイシンバーリン、ロイヤルスズカ)と、前半は馬場のいいところを通り、後半は3コーナーから内を通って距離のロスなく回ってきた馬(チアズサイレンス、ヒロデクロス)では、事情が変わってくる。木下は、前者(先行した馬)を2ポイント(時計にして約0秒5)マイナス、後者(3角から内を突いた馬)を4ポイントマイナスと考えた。

さらに、「大外のほとんど使われていないコースを通ってきた馬」は、逆に不利を受けたと考えることにした。9着スギノハヤカゼ、10着シーキングザーパールなど5頭を4ポイントプラス、11着ブラックホークは、その中でも極めて伸びがよかったと判断し、5ポイントプラスした。

これにより、実際の着順と、木下の考える能力評価は、表①のように変化する。

これを見ると、実際の着順ではタイキシャトルから3着のヒロデクロスが、補正後は離された4着。8着のチアズサイレンスが、補正後は大きく離された10着になる。逆に、9着のスギノハヤカゼは、接近した6着に変化する。

木下のこの「補正」は、すぐに効果を発揮する。たとえばヒロデクロスは、続く7月19日の朱鷺Sで4着に敗れた。一般的な考え方だと、人気薄といえど仮にも古馬混合GIで3着した馬が、ローカルのオープン特別で勝ち負けにならないとは想像しにくい。が、結果はご覧の通り。

また、木下の馬券術の「デジタル部分」にオーバーラップする、タイム理論においても然り。通常のタイム理論ならヒロデは、安田記念でタイキシャトルに0秒7差の3着となると、飛び抜けた数字が出るはずである。負けようがないと考え、朱鷺Sは単勝勝負したタイム理論の愛好家も多いだろう。しかし、木下の補正値では、そこまで高くはならない。高いことは高いが、負けてもおかしくないというレベルにまで落ちる。

木下の「走馬術」の確かさは、これによって証明される。

※ 補正後の秒数はあくまでも目安

「2着馬より10着馬が強く見える」理由

スピード指数などのタイム理論は「走破タイム」をべースにしている。したがって 着順(タイム)が上の馬は、下の見より必ず数字が高く出る。着順(タイム)が下の馬が上位の馬よりも高い能力があるとは絶対に考えられない。

これにより、タイム理論などをはじめとする「能力値」は どちちかといえば人気馬(最近の着順が上の馬)を上位に取り上げてしまう傾向にある。

ところが、木下の考え方は違う。極端なことを言えば、

●「前走同じレースを走って10着の馬が2着の馬よりも強いと言いきれる」

馬券術なのである。

したがって これにより穴馬券もどんどん的中させている。表②をごらんいただきたい。10月31日京都9Rの北野特別は 10月17日京都9Rの嵯峨野特別の2、3、4着馬が出走。再戦ムードであった。1番人気が嵯峨野特別3着のワールドナウ 2番人気が嵯峨野特別2着のジントルネードで、嵯峨野特別で4着だったサワノフラッシュは6番人気に過ぎなかった。

ところが 木下の能力評価は 嵯峨野特別組ではサワノフラッシュが最も高い。しかもジントルネードやワールドナウとはかなりの差がある。木下は、迷うことなくサワノフラッシュの単複勝負に出て、単勝1310円、複勝400円をゲットしていろ。馬連は敢えて買わなカったが 木下の能力比較表をみれば 2着したブライダルスイート(4番人気)も十分に買える。馬連4810円は簡単な馬券だったはずだ。

きて、なぜ嵯峨野特別では 4着馬の能力が2着馬や3着馬より高いと判断したのか?

「まず、京都2000メートル しかも不良馬場で 先行馬が圧倒的に有利だったこと。2着したジントルネードと3着のワールドナウは先行して粘り込む競馬でした。ところがサワノフラッシュは最後方から行っで ワールドナウとハナ差の4着。これだけでも サワノフラッシュの能力がここでは十分勝ち負けになることを証明しているでしょう。さらにこれだけでなく ビデオを何回も見直してみるとサワノフラッシュは明らかに脚を余して負けていました。届かず4着でしたが もう少し早く仕掛けていれば、あるいはもう少し直線が長ければ、と感じさせました。能力的には 2着や3着馬より上と判断したわけです」

京都外回り1800の北野特別では、木下の能力評価が正しいことが証明される。逃げたジントルネードは直線一杯になって8着、先行したワールドナウも伸びがなく5着。7番手から直線一気に差してきたサワノフラッシュが快勝したのだった。

表②

※ 嵯峨野特別での木下の能力評価は着順とは逆転し、同メンバーの北野特別ではその通りに決まる。単勝1310円をあっさり的中。

新聞でペースを判断していては勝てない!

木下の「走馬術」は まだまだ奥が深い。彼は「レース」から、他にもさまざまなことを見ているのである。
たとえば、ペース。木下は言い切る。

「HとかMとかSとかいう、新聞の印だけで 簡単にスローとかハイペースとか判断してはダメですわ」

普通ペースは、逃け馬の刻むラップで測られている。逃げ馬の刻むラップが、イコール「レースのラップ」としで発表されるからだ。しかし、そんなにに事は単純でないという。

「レースをよく見ると、逃げ馬以外の先行馬がペースを作っている場合が多々あることがよくわかります。また、ラップ自体は遅くても、3、4頭がハナ争いしているとき、先行馬が苦しがっている場合もあります。特に、馬群が横に拡がるような展開では、先行馬は厳しい。レース全体の『流れ』を考えながら見ないと、本当のペースはわからへんのですわ」

木下はその馬にとって厳しい流れだったかラクな流れだったかを「ストレス」という言葉で表す。ストレスがあって全能カを発揮できなかった馬と、ストレスなく全能カを発揮した馬では、まったく評価が変わってくる。先ほどの「歩いている馬」と「走っている馬」でいうなら、ここでは「走っている馬の消耗度(ストレス)」を見るわけだ。

そしてもうひとつ、大切なのが「馬場差」である。いくら全能カを発揮しても、馬場差があれば、個々の馬の走破タイムは変わってくる。この馬場差は、通常のタイム理論では、1日ごと、あるいは、せいぜい1レースごとに設定される。しかし、木下の場合は違う。安田記念で例で述べたように、それぞれの馬の通った「コース」により、馬別に馬場差を設定するのである。これも先ほどの例えで言うなら「走っている馬の走ったところ」を見ているのだ。

「たとえば、10月の福島がええ例ですわ。内からどんどん悪くなって、後半はほとんどの馬が大外を通ってました。でも、たまに内を突く馬もいる。誰でもわかることやけど、このとき内を突いた馬の通ったところと、大外を選んだ馬の通ったところは違うでしょう?だったら、馬ごとに馬場差を設定せんと、おかしなことになるわけです」

これは、非常に明快な理論である。アンドリューベイヤー以後 タイム理論は進化したが どれも馬の通ったコースまで考えてはいなかった。なぜか。馬場差を設定する担当者が、レースを「見る」専門家ではないからだ。

しかし現実には、通ったコースにより、それぞれの馬のタイムは変わってくる。それに対応しなくては、本当の馬の能力がわかるはずがない。

木下には、武器がある。「レースを見る」目=走馬術である。だから、彼は馬場差を正確に設定できる。
「極端に荒れた馬場も問題ですけど、仮柵を取った後の走りやすい馬場も問題です。ただこのとき注意せなあかんのは 仮柵を取れたコースを走らなかった、つまり外を回った馬の不利について、です。普通なら、外を回った馬は不利だったとプラス補正をするべきだと考えがちですが、そういう馬は次のレースでも外を回る場合が多い。したがって、次のレースでも同じような能力しか出せへんわけです。私の場合は、逆に内ラチ沿いを走った馬に多少のマイナス補正をかけます。これで馬場差はかなり修正されるはずです」

丸秘データ一部・公開激走「※馬」を狙え!

さで 木下流「走馬術」。だいたいご理解いただけたであろうか。最もわかって欲しいのは「着順やタイムだけでは馬券は取れない」ということだ。一般の競馬ファンは、どうしても馬柱で着順のきれいな馬や「前走2着」とか「待ちタイムがい」ことかいうことで馬券を買ってしまう。タイム理論の信者にしても、単純に「数字がいい」と馬券を買う。しかし、それでは固い馬券は当たっても、穴馬券は取れない。

「前走同条件で2着した馬は、必ずしも前走同条件で10着だった馬より強いわけではない」

それが 木下の考え方である。むしろ、「前走10着で人気の無いA馬のほうが、前走2着で断然人気のB馬より強い」と言い切れる方法。それが木下式走馬術である。木下は、だからこそ平気で人気薄の馬から勝負できる。そして馬券で生活しているのである。

表③

※ この号が出る頃には勝ち上がっているのもいるが、それ以外なら狙ってみると面白い。特に人気が無い場合は。(1999年2月号)

参考までに、表③では木下の「激走※(こめじるし)馬」の一覧を掲載した。※馬とは、木下が「いつ走るかわからないが、近い将来、必ず馬券になると判断した」馬である。現実にはすでに馬券になってしまった馬もいるが、それ以外は、次走出てきたときに狙ってみてはどうか。

なお 繰り返しになるが、今回の記事は、彼の馬券術のうち「デジタル」というべきタイム理論を省き「アナログ」部分を取り出したものである。デジタルとアナログが融合してこそ、彼の馬券術が完成する。次号では、この「デジタル部分」にも触れ、木下がどんな馬券を購入し、どうやって儲けているかを考察したい。