最強の法則・バックナンバー

最強の法則1999年3月号

第3回 再びアナログ理論編

「毎週100万買ってた昔に比べれは……」

この連載をはじめて以来、数多くの反響をいただいた。特に多いのは「私も馬券で勝つことができるんだ、と勇気がわきました」というもの。馬券で妻子を養う木下の存在が、全国の競馬ファンをカづけているとしたら、取材班が彼を取り上げた意味もあったというもの。こんなに嬉しいことはない。

では、そんな木下について、もう少しその人となりを突っ込んでみよう。たとえば、素朴な疑問、馬券で負けて窮地に追い詰められたことはないのか?ちょっと意地悪な質問ではあるが、彼の奥さんに、ストレートにこの疑問をぶつけてみた。

「昔に比べれば、全然そんなことはありません。今は、安心していられますよ」

昔はそんなにすごかった?

「ええ、4、5年前までは。毎週百万単位で馬券買ってましたから」

木下が電気工事閑係の会社で働いていたというのは、連載の最初に書いたが、実は、彼はその会社の経営者だった。勤めていた不動産会社が倒産したため、電気工事閑係の会社に入って数年修行。その後20代後半で独立した木下は、数人を使って経営者として電気工事会社を切り盛りしていた。時は、まさにバブルの絶項期。

「年収は2000万超えてましたわ」

木下は言う。月に20日ほど働くと、200万ぐらい入ってくる。

「馬券の買い方はめちゃくちゃでした。最低が1万円単位。働けば金は入ってくるから、別にええわ、思うて。熱くなると百万ぐらいすぐ勝負しとった。勝つときもあったけど、金に執着がないから、やっばり負けたほうが多かったですね」

奥さんも、その頃はさすがに夫の金遣いの荒さを心配したというが、それも当然といえるだろう。

しかし、馬券生活者になってから、木下の買い方は大きく変わった。

「今は、100円が大切ですわ。生活かかってますから、確実に儲けないけません。毎月40~50万は生活費に消えていくから、勝負するためのタネ銭をできるだけ少なくしとかんとあかんのです」

そして、方法を確立した今では、1日にどんなに使っても10~20万円、という形になった。

「荒れそうなレースはだいたいわかるから、そういうレースは買わなくなりました。買っても、穴馬券を少しだけ、ですわ。」

さらに、木下はなんとキヤツシングの経験まで話してくれた。

「勝てへん日がちょつと続くと、生活には支障がないけど競馬のタネ銭がない、というときがありますんや。この生活はじめてから2、3回やけど、カードでキヤツシングしたときもありますわ」

もちろん、そのお金はすぐ返した。だから今の木下があるわけだが、いいにくそうなことまで率直に語ってくれる木下に、取材班は親近感を覚えた。

さて、では本縮に入ろう。先月号では、木下の馬券術は「デジタルとアナログの融合」にあると紹介し、そのアナログ部分である「走馬術」について述べた。

今月号では、デジタル部分について書くと予告していたが、まだまだ、木下の「走馬術」は奥が深い。連載をもう少し延ばすことにして、今回もアナログ部分について、さらに突っ込んで分析することにする。あらかじめご了承いただきたい。

今回の分析にあたっては、木下に過去のレースのビデオを見てもらいながら、「レース中に見るべきポイント」「レースを見ると具体的に何がわかるか」を解説してもらった。レース中の写真をふんだんに盛り込みながら説明していくから、先月号で実感として捉えられなかった人も、かなりわかってもらえるのではないかと思う。参考になれば幸いである。

3年前、それまで勤めていた電気工事関係の会社を辞め馬券生活者となる。
辞めた理由は、勤めたままでは、競馬の研究をする時間がないから。以後、研究と実践に没頭し2年半で彼が叩き出した馬券収入は約2000万円、年収に直すと約800万円。
大阪の郊外のマンションに住み、文字通り馬券で妻一人、娘一人を養っている。
妻はよき理解者でもある。(詳細は1月号にて)

①コースロス

コースロス。よく聞く言葉であるが、さて、実際には内外でどのくらいの差があるのか。外を通った馬はどのくらい不利があるものなのか、実感として理解している人は少ないのではないか。木下にかかると、これが単純明快となる。写真Aをごらんいただきたい。

これは、12月12日に行われた中京12レースだ。写真を見ると、4コーナーで完全に外に膨れた馬が教頭いることがわかる。このあと、外に膨れた馬たちはいったん完全に置かれるが、それから伸びてきた。こういう馬たちは、木下の「補正」の対象になる。入線タイム(を数値化したもの)に、若干ポイントをプラスする。補正するタイムは、コースロスなく内を通った馬たちの入線タイムを考慮して、0秒2~O秒4程度。補正しても1着馬に勝つまでにはいたらないが、少なくとも着順よりはもう少し上の評価になるわけだ。

この考えを堆し進めると、この例では実際にはいなかったが、これだけのコースロスがあったにもかかわらず僅差まで追い上げた馬がいた場合は、勝ち馬よりもそのタイム的価値は高くなることも多々ある。

「この補正だけで穴馬券が取れることはよくあります。ただ、難しいのは、コースロスのあった馬は、次のレースでも外を回ってしまって同じ不利を受けるケースが多いということです。コースロスがあった馬の騎手が次走替わってきた場合などは、狙う価値があると思います」

写真A 12/12中京12R(芝1200)

コースロスの典型例。小回りの中京でこんなに外を回っていては、よほど力が抜けてないと。勝てない。木下的には、ここでタレなかったなかった馬、しぷとく伸びてきた馬を、最終走破タイム以上に評価する。

 

コースロスは、ダートでは特に顕著に出る場合が多いのも覚えておきたい。たとえば、12月12日の阪神・シリウスS(写真B)。

写真B
①この静止画像からはわかりにくいが、馬群のつまりかたや馬の走りっぷり、ジョッキーの手応えなどから、実際のラップほどはきついペースではないと木下は判断した。

「このレースは、一般にはハイペースのレースといわれていますが、道中を見ると、馬群が詰まって、先行馬がかなり楽な手応えであることがわかります。後方にいる馬たちは仕方なく外に出したわけですが、外に出した馬はすべてコースロスを受けて、結局まったく伸びませんでした。正解だったのは2着したオースミジェットの四位騎手。後方にいながらじつと内を回って待機し、コースロスなく内を一気に伸びました」

勝ったのは2番手を進んだマコトライデン、3着ビーマイナカヤマ、4着パーソナリティワンと先行馬が残り、外を回った差し馬ではイソノウイナーが6着に入ったのが精一杯だった。このレースを見ていた木下は、イソノウイナーを非常に高く評価し、1月10日のガーネットSを本線的中している。

写真B

①この静止画像からはわかりにくいが、馬群のつまりかたや馬の走りっぷり、ジョッキーの手応えなどから、実際のラップほどはきついペースではないと木下は判断した。

② 4コーナー。確かにつまった馬群が横一繰になり、典型的なスローの上がり勝負のように見える。写実の点線右(=外)を回った馬はかなりのコースロスで、この馬群で最先着(6着)は最後方にいた⑯イソノウイナー(次走ガーネーツトS2着)。あと上位5頭は、次項の結果とあわせてみると、全て内を回っているのがわかる(写真中の数字は馬番)。⑥オースミジェットは内を回ったとはいえこの位置から2着に押し上げているわけだから、次走平安Sの勝利も順当といえよう。
③ ②の写真からわずか2秒後の映像。外にいた馬がおかれて、馬群が再び縦長になっている。内外の有利不利が一目瞭然だ。
 G前。1着⑧マコトライデン、2着⑥オースミジェット3着①ピーマイナカヤマ。

②ストレスの高いレース

次に、競走中に馬が大きなストレスを受けたレース、というパターンについて述べておこう。ストレスに関しては先月号でも述べたが、ペースに関係なく、展開面で馬がストレスを感じ、それによって伸びなかった場合がある、と木下は考えている。

たとえば、写真Cをごらんいただきたい。これは、1月6日に行われた中山8R(ダート1800m)であるが、ご覧のように、1コーナーで先頭に4頭が並び、同じょうに2番手グループも4頭が横並びになっていた。

「このレースは、1000m通過が62秒5。この日の馬場状態とクラス(500万条件)を考えると、ややスローと判断できるかもしれません。しかし、それでも先行馬は総崩れになってしまった。これはなぜか。先頭にいた4頭とその次の集団の4頭は、ラップ以上のかなり大きなストレスがあったからなのです」

木下は、グリーンチャンネルを録画して、毎週72R(2場開催時は48R)を何度もチェックしながら見ている。その経験から導き出した結論として、いくらスローであっても、「1~2コーナーを並走(雁行)で行った場合には、馬にかかる負担が大きい」ことを指摘した。

「こういうレースで並走しながら進んでつぶれた馬は、やはり補正をします。横に馬がいるかいないかというのは、競走馬にとつてはかなり走りっぷりに違いが出る。こういうのは、しばらくレースを観察していると、すぐにわかることですわ」

「勝ったタイフウジョオーは、これら並走する馬たちからやや離れた外を回して圧勝しましたが、これはロバーツ騎手の好騎乗といえるのではないでしょうか」

このレースの補正該当馬は、並走しながらも逃げて3著に敗れたテイクザレインズをはじめとして、次走またはその次で、すんなり先行できれば馬券になる可能性が高いとのこと。ぜひ追いかけてみたいものである。

写真C 1/6中山8R(ダ1800)

 1コーナーすぎの先行集団。誰が行くか行かないか、それぞれが手探り状態のまま、4頭横並び。こうなるとラップ以上に馬に大きなストレスがかかると、木下はいう。この状態は向正面までつづく。

 やっと馬群がバラけ始めた3コーナー。外を捲くっている⑭は勝馬となるタイフウジョオー。②テイクザレインズは先頭のままだが、⑤と⑲は早々と下がりはじめた。
③ 最後の直線。②と⑭の馬体があうが、一瞬にして⑭が交わし、7馬身差の圧勝。だ②もしぶとく残り、3着を確保持。この1着と3着以外は、パテた先行集同をかき分けてきた後方集団で、2着は道中ずっと最後方のウエディングセボン。木下的には、2着馬より、ストレスの大きい先団にいながら3着を保持した②テイクサイレンズの方が圧倒的に高し評価となる。⑭の高評価は言うまでもない。

③走馬術的“レベルの高い”レース

3つめ、。これは、馬券に最も直結する「走馬術」だ。ズバリ「レベルの高いレース」である。

新馬戦などに多いが、あるレースで2着から5着に敗れた馬たちが、次のレースで全て勝ちが上がってしまう、などということがある。これを称して「あのレースはレベルが高かった」と言ったりするわけだが、勝ち上がってしまってから、それがわかっても遅い。もう、すでに馬券になってしまっているからである。あるレースを観察していて、「このレースはレベルが高い。負けてしまった馬の次走は狙いだ」というのがわかれば、じゅうぶんに大儲けが可能である。

もちろん木下はそう言うレースの見分け方を知っている。

例えば、12月20日中山3R新馬戦ダート1000M(写真D)が、これに該当した。馬連2万円超の大穴となったレースだが、木下はレースを見ていて、

「どの馬も距離不足で本来の力を発揮できていない。ここで負けた馬が1200M以上に出てきたら、次走絶好の狙いだ」と感じたと言う。

12/20中山3R(ダ1000)

この写真だけでは何ともわかりにくいが、木下とともにビデオを繰り返し見ていると、その走りっぷりから、明らかに距離不足でエンジンがかりが遅い馬が数頭いるのが見て取れた。結局のところ、これらの馬は”脚を余して”いたのだ占そしてこれらの馬の次走は表①の通り。レースを繰り返し丁寧に見ていると、こういう徹妙なところまでわかるようになってくる。これぞ、木下の走馬術の極意のような例だ。

さて、このレースを走った馬たちがどなったか表①をご覧いただきたい。

6着から6馬身以上離された7着以下の馬は、次走ですべて敗れているが、1着と僅差だった6着までの馬は、出れば必ず勝っている。ということは、ロイヤルモガンボやタイキプレジデントが出てくれば、次走確勝だが、さすがにこの号が書店に並ぶ頃には、もう走っているかもしれないのが残念である。

いずれにせよ、木下は、このレースのレベルが高いことを見抜いたために、いくつものレースで確実に馬券をゲットした。

表①「レベルの高いレース」のその後
(1月17日現在)

表② 木下が評価した、最近の“レベルの高いレ-ス”

表②には、木下が最近「レベルが高い」と感じたレースとその寸評を載せておく。前号、試験的に「激走*馬」を載せたが、これは馬券になるのは下級条件が多く、このクラスだと原稿を締め切ってから勝ち上がってしまうことが多かったので(実際にすでに出走した半数以上が連対)、ちょっとうまみが薄くなってしまった。というわけで今回はこれ。ここに出てきた馬は、ぜひ注意しておきたい。

ジョッキーの乗りミスも鋭くチェック!

加えて、木下がビデオを見ながらつぶやいた言葉を、順不同で並べておく。いずれも、今後の馬券の手がかりになるはずだから、ぜひチェックしておいてほしい。
●12月12日 オリオンS
勝ったケープリズバーンが内をロスなく回ったのに対して、2着のケイズドリームは外過ぎて一旦置かれてしまい、そこから伸びてきた。価値ある2着。(ケイズドリームは次走迎春Sで3番人気2着)

●12月13日 中山6R
勝ったトウキュウアビーはかなりロスがあり、着差以上に強い競馬。上のクラスでも注目。2着のキオマドーロは、3コーナーからかなり余分な脚を使っており、これも次走注目。

●12月19日 中山7R
勝ったマイスプリームリーは、首の使い方、馬体の伸びなど、あのタイキシャトルを思い起こさせるほど。これで2戦2勝だが、上のクラスでも突破する予感。

●1月6日 中山9R黒竹賞
3着のスターシャンデリアは、明らかに吉田騎手の乗り違い。内にささる癖がありそうだが、そんなこと以前に、楽勝だと思ったのかほとんど追わずに4コーナーを回って、直線で後続の2頭に差されてしまった。4コーナー手前からきっちり追って、差を広げてから直線に入っていれば負けなかった。よほど強力なメンバーで無い限り、同条件なら次走は確実に勝てる。

以上の分析とは別に今回は重賞レースの分析もやってもらった。いずれにせよ、木下のレース分析は非常に的確で、かなり信頼できるはずだ。取材班も、彼の分析を元に、いくつかレースを取らせてもらっている。ご参考にしていただきたい。

木下宅にて。この日(1月11日)は、レースビデオを見ながらの、徹底取材。木下は正月開催の4日間ですでに、予定以上のプラスを計上していた。これで食っているのだから当然といえば当然だが。

とにかく丁寧にレースを見よう

さて、実戦に沿った「走馬術」の実態。みなさんには、どのように映っただろうか。一口に馬券理論といっても、「本当にそんなんで馬券が当たるのか」と首をかしげたくなるような理論がはびこる世の中である。そんな中で、少なくとも木下の理論は非常に理知的で、きわめて冷静な分析に基づいたものであることは、おわかりいただけるのではないか。取材班は、取材を進めていくうちに、彼ほど丁寧に競馬を観察し、分析している馬券生活者は希だと思うようになった。

考えてみて欲しい。ここまで木下の言葉や方法に、何か魔法のような、理解不能なものがあっただろうか。よくよくいわれてみれば「ああそう、なるほど」というものばかりではないだろうか。そういう木下を我々はスゴイと思うが、当の木下自身はというと、ただひたすら丁寧に、緻密にレースを見るという行為を積み重ねているだけなのだという。

こういう木下の馬券が当たるのは当然である。これだけ情熱を注いでいるのだから、ぜひとも当たって欲しい、そう願わずにはいられない取材班一同であった。

連載は次も続く。次回こそいよいよ、木下の予想の「デジタル」部分にスポットを当てられるはずである。